Dr白鳥の頭痛相談室 その20(2021年5月20日)
およそ15年ぶりの片頭痛の新薬
〜エムガルティの当院での使用方針〜
エムガルティ(一般名:ガルカネズマブ)が2021年4月26日発売になりました。
片頭痛の新薬としては、久しぶり。待望の新薬です。頭痛相談室の更新も2014年以来。
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を抑制する薬理機序としては国内初の片頭痛の予防薬になります。CGRPは脳の硬膜や三叉神経で、片頭痛発作時の血管拡張や炎症反応の原因とされているものです。この薬は、CGRPの働きをブロックすることで、発作を減らし、また、発作を軽いものにすることが期待できます。モノクローナル抗体製薬であり、注射剤です。最近はコロナのおかげで、皆さんも抗体、という言葉にはなれていると思いますが、その連想でなんとなく飲み薬じゃ無理、と想像が付きますね。ワクチンとは違い、毎月注射する必要があります。
対象となる患者さんは
1、片頭痛と診断されている
2、1か月に頭痛が15日以上あり、そのうち8日は片頭痛の性質が明らか(慢性片頭痛)
3、従来の片頭痛予防薬が無効、または副作用などで使えない
4、妊娠、授乳中は、他に手段がないか慎重に検討
5、18歳以上
6、薬物乱用(薬物使用過多による)頭痛を除外できる
となります。
保険適応では、片頭痛が月4回以上あれば使用できるのですが、日本頭痛学会の推奨では、新たな慢性片頭痛の診断基準を満たしていることとなっているので、当院でも当初はその基準を採用します。実際の診療の実感と合致しているからです。月4回程度の頭痛でこの注射剤を使うことにしたら、過剰投与でしょう。
具体的には、当院に3カ月以上通院していて(今や10年選手も大勢いらっしゃいますね、ハハハ)、デパケンやトリプタノールなどの予防薬が無効、または利用できない方で、頭痛頻度が多い方、トリプタン製剤(片頭痛頓服薬)の効きがいまいち、という方から使うことになりそうです。朝、頭痛で目が覚める方は、トリプタン製剤が無効なことも多く、そうした方もいい適応ではないかと考えます。頭痛ダイアリーの記載は必須。
逆に、頭痛頻度が月10日以下でトリプタン製剤がよく効いて、現状に全く不満のない方には不要と思われます。
あわせて、最近5年以内に画像検査を行っていない方は、この機会に画像検査を念のため行うこともお勧めします。
さしあたり、エムガルティは、頭痛診療経験が5年以上の専門医しか使用できない薬剤に指定されており、浜松市で処方可能な施設はおそらく10施設程度になると思われます。しかし、浜松市内の専門医の中には、薬物乱用頭痛の診断または除外を十分に行わない先生もいらっしゃるので、その点が気がかりです。
また、慢性片頭痛の診断に関していえば、頭痛診療をしていると、片頭痛か緊張型頭痛か、正直診断に迷うことが多いです。医者にもわからないし、なおさら患者さんには区別がつかない、てやつです。当院は、国際頭痛学会が京都で行われて以来、頭痛外来を始めた老舗なのですが、自分が問題意識を持つタイミングと、学会のオピニオンリーダーが指針を述べるタイミングがいつも不思議なくらい一致して驚くほどでした。今回も、5年くらい前から、自分的には片頭痛と緊張型頭痛と判断に迷う時には、いったん片頭痛と診断し、治療を行い、改善するかどうかを観察する、という方針でいましたが、エムガルティの発売に合わせ、学会もそういいだしているので、納得できました。トリプタン製剤(片頭痛頓服薬)しかなかったときには、学会は片頭痛と緊張型頭痛は明確に分けられる、という立場で話すことが多かったのですが、ここ数年、エムガルティの発売にあわせ、軌道修正を徐々に行ったのでしょう。
なぜなら、片頭痛と緊張型が明確に区別できないと、この予防薬を使用できないとなると、リアルワールドではかなり困ったことになりますから。それが、頭痛としては月15日以上、そのうち片頭痛の性質を満たす頭痛が月8日以上、という微妙な慢性片頭痛の定義に反映されているわけです。
肝心な効果のほどですが、半年間毎月注射することにより、大まかに言って2人に一人の方の頭痛頻度が50%に減り、4人に一人が25%に、なんと10人に一人の方は0になります。3人に2人ぐらいの率で、新たな人生が始まると考えてよさそうです。これは従来の予防薬に比べると圧倒的に良い成績です。
以上、エムガルティの発売にあわせ、当院での使用指針をまとめました。特に初診の方は、恐れ入りますが、電話での問い合わせはお控えください。お電話でお答えすることは一切ありません。そのためにも公式サイトで情報発信をしています。ご相談のある方は、予約なしで受診をお願い致します。初診の方は、予約できません。休診日は公式サイトのお知らせをご覧ください。2回目以降は原則的に予約での受診となります。